どうして私は、自分を守るべき時に、自分を攻撃してしまうんだろう。

ドラマを見ながら、何度かそんなことを考えた。登場人物のことじゃなくて、自分のことを。

このドラマは「頑張れ」と言わない。

ただ、「そうか、あなたもそういう時があったんだね」と、静かに隣に座ってくれる。

この物語が、手渡してくれるもの

01追い立てず、ただ隣に座る。
02逃げた日も、生き延びた日。
03明日より先に、今日を抱える。

ドラマは、行き場のない人のために

この作品に込めた思いについて、監督はこんなことを語っていた。

「役に立たなければ淘汰されるこの世界で、ドラマは、誰にも頼れず、ひとりぼっちで、どこかへ行く時間も、何かを観に行くお金もない人たちのために存在すべきだと思います。そういう人たちのためにあること。それが『ドラマの使いどころ』だと、私は思います。」

この言葉を読んで、見る前からもう泣きそうになった。

※スピーチの内容をもとにした意訳です。

明るい室内で向かい合って話すミジとセジン
言葉にできなかったことを、少しずつ話していく。

あらすじ・どんな話?

2025年に放送された韓国ドラマ。Netflixではリミテッドシリーズとして配信され、パク・ボヨンが一人二役で演じる双子の姉妹が主人公。

姉のミレは、誰もが羨む「正解の人生」を歩んできた。名門大学、安定した仕事、家族を支える長女。でも、いつからか毎日「完璧な自分」を演じているだけになっていた。

妹のミジは、ずっと「はみ出した側」にいた。学歴もなく、定職もなく、お母さんにも認めてもらえなくて。それでも、諦めきれない何かをずっと胸の中に抱えている。

ふたりはある日、互いの人生に「入れ替わる」ことを選ぶ。

光の差し込む部屋で手を取り合う双子の姉妹
わかり合えない日も、手を離さない。

同じ顔、違う傷

主演のパク・ボヨンが、姉と妹の一人二役を演じている。同じ顔なのに、表情がまるで違う。姉の目は、いつも少しだけ遠い。妹の目は、不器用なほど正直だ。

ふたりを見ていると、「優秀な人」と「そうじゃない人」という単純な対比じゃないことに気づく。どちらも、自分を信じられなくて、本当の自分をうまく見せられなくて、誰かに「それでいいよ」と言ってほしかっただけ、なのかもしれない。

そしてそれは、画面の中だけの話じゃなかった。

「見てもらえる」ということ

このドラマがほかの韓国ドラマと違うのは、「解決策を出さない」ところだと思う。

姉のミレが職場で追い詰められていく過程も、妹のミジが三年間部屋にこもっていた理由も、ドラマは「こうすれば解決できる」とは言わない。ただ、「そうか、そういう理由だったんだね」と、丁寧に掘り下げていく。

うまくいかないのは、自分がダメだからじゃない。環境が、構造が、タイミングが、そして誰にも言えなかった重さが、ちゃんとそこにあった。

普通の人の生活には、“解法”がないことが多い。だからこそ、解法を出さずにそばにいてくれるこのドラマが、こんなにも深く刺さるのかもしれない。

ソウルの川辺で言葉を交わすミジとホスソウルの街を歩くミジとホス
場所が変わっても、そばにいてくれる人がいる。

台詞が、名言っぽくない

このドラマの台詞は、仰々しい「名言」っぽさがないのに、じわじわと深いところに刺さってくる。

「獅子から逃げる鹿は、ゴミになるの? 食べられるのが怖くて隠れるヤドカリは、臆病者なの? あなたも同じ。どんなに惨めに見えても、生きるためにしてきたことは、全部勇気だよ。」

「過去を振り返れば後悔するし、見えない未来を考えれば不安になる。だから頭が爆発しそうになったら、編んで。一目一目編んでいけば、一日が過ぎていく。転機が来なかったとしても、少なくとも洗い物かごくらいは手に入るよ。」

「昨日は過ぎ去り、明日はまだ来ていない。今日は、まだ“未知”のまま。」

苺の温室で苗を手に向き合うミジとセジン
酸っぱい苺でも、いつか美味しいジャムにできる。

酸っぱい苺でも、ジャムはできる

このドラマには、場所の話も出てくる。ソウルから逃げるように田舎へ向かった姉。田舎からソウルに飛び込んだ妹。でも、どちらも「そこへ行けば楽になれる」とはならない。

場所を変えても、自分の中にある声は変わらない。逃げたいのは「この街」じゃなくて、「この街での自分の在り方」だったのかもしれない。

「酸っぱい苺でも、最高のジャムは作れる。」

ここから軽いネタバレあり

怖くないよ、ずっとそばにいるよ

このドラマで一番好きな場面がある。詳しくは書かないけれど、ミジがずっと閉じていた扉を、ついに自分で開けるシーン。

その瞬間、彼女は扉の向こうにいる「もうひとりの自分」に向かってこう言う。

眠るミジを静かに見守るホス
言葉にしなくても、そばにいてくれる。

「怖くないよ。私はずっとそばにいるよ。」

これは、ドラマが視聴者に言っている言葉でもあると思った。あなたの自己嫌悪も、臆病さも、誰にも言えなかった孤独も、ちゃんと見えているよ。

暗い夜に向き合い、手を取り合うミジとホス
怖い夜にも、差し出される手がある。

見終わったあとに残ったもの

全話見終わって、画面を閉じたあと、しばらくそのままでいた。

何かが終わった感じじゃなくて、何かをそっと受け取った感じ。

このドラマが差し出すのは、「頑張れ」という励ましではない。うまく歩けない夜にも、急かさず隣にいてくれるような、静かなまなざしだった。

自分に少し優しくなりたいとき、疲れてはいないけど何かが重いとき。そんな夜に、そっとおすすめしたい一作です。

印象に残った台詞

視聴中にメモした言葉をまとめています。日本語字幕をもとにした意訳で、字幕版によって表現が異なる場合があります。

今日という日

今日は、まだ“未知”のまま。

頭が爆発しそうになったら、編んで。

転機が来なくても、少なくとも洗い物かごくらいは手に入るよ。

自分を責めない

生きるためにしてきたことは、全部勇気だよ。

あなたも、今この瞬間を初めて生きている、ただの人間なんだよ。

成功は社会に見せるための大きな物語。幸せは、自分だけのささやかな宝物。

酸っぱい苺

酸っぱい苺でも、最高のジャムは作れる。

たとえ何もなくても、少なくとも苺は持てる。

仕事と生きること

仕事を辞めても、あなたはあなたのまま。下り坂なんかじゃない。ただ、辞めただけ。

人生に完璧なんてない。みんな、なんとか踏ん張ってるだけ。

人生は行き止まりにはならない。でも、感情は行き止まりになることがある。

愛について

愛されて初めて、愛し方がわかる。

愛は、勝ち負けじゃない。負けるとわかっていても、隣に並んで最後まで歩き続けること。

受賞・ノミネート

第62回 百想芸術大賞(2026)

受賞:TV部門 女子最優秀演技賞(パク・ボヨン)

  • 作品賞
  • 監督賞:パク・シヌ
  • 男子最優秀演技賞:パク・ジニョン
  • 女子助演賞:ウォン・ミギョン
  • 脚本賞:イ・ガン

※パク・ボヨンの受賞以外は、すべてノミネートです。

作品情報

作品名 未知のソウル(Our Unwritten Seoul)
配信 Netflix(配信中)
話数 Netflix版:全10話
出演 パク・ボヨン、パク・ジニョン、リュ・ギョンス
ジャンル ヒューマンドラマ、ロマンス
放送 tvN・2025年
受賞 第62回百想芸術大賞 TV部門 女子最優秀演技賞(パク・ボヨン)